東京高等裁判所 平成5年(ネ)709号 判決
主文
一 本件控訴をいずれも棄却する。
二 控訴費用は、控訴人の負担とする。
事実及び理由
一 当事者の求めた裁判
1 控訴の趣旨
(一) 原判決を取り消す。
(二) 被控訴人らは、控訴人に対し、各自、金一億二五六万六三四五円及び
内金一三一二万八三四九円について平成元年一二月一六日から
内金一三二三万四八五八円について平成二年一月一三日から
内金一三三六万四一九〇円について平成二年二月一六日から
内金二三一二万四四五円について平成二年四月一四日から
内金二二三〇万六八五一円について平成二年一〇月一六日から
内金六二万三三八三円について平成元年八月一七日から
内金一三四〇万九二八四円について平成三年四月一〇日から
内金二三八万六四〇〇円について平成二年七月一四日から
内金九九万二五八五円について平成二年六月一五日から
各支払いずみまで年六分の割合による金員を支払え。
(三) 仮執行宣言
2 被控訴人らの控訴の趣旨に対する各答弁
本件控訴を棄却する。
二 事案の概要
本件は、控訴人が、被控訴人ら側とエアコンの海上運送契約を締結し、中国の福州まで右貨物を運送したところ、船積船荷証券の船積前発行があったとして中国において右貨物の買主に対し裁判で損害賠償を命じられたが、このような損害を被ったのは被控訴人らに運送契約に伴う保護義務違反があったからであると主張して、被控訴人ら双方に対し債務不履行又は不法行為による損害賠償請求をした事案である。
1 当事者間に争いのない事実及び前提事実については、原判決「第二事案の概要」のうち「一 争いのない事実等」のとおりであるから、これを引用する。但し、次のとおり訂正付加する。
(一) 原判決三枚目裏四行目の「中旬」を削る。
(二) 同四枚目表九行目の「一五〇〇台」から同末行末尾までを「一五〇〇台。)を行う(以下、本件貨物全体と区別する必要があるときは、それぞれ『本件六月分』、『本件七月分』ということがある。)。」に改める。
(三) 同四枚目裏七行目の「被告」の次に「三明」を加える。
(四) 同五枚目裏一〇行目の「従って、」の次に「有効期限を七月三〇日とする中国銀行発行の」を、同一一行目の「甲」の次に「五、」を加える。
(五) 同六枚目表七行目の「二一」の次に「、二二」を加え、同九行目の「完全な」を削る。
(六) 同七枚目表三行目の「寧徳」の次に「地区経済協作」を加える。
(七) 同八枚目表一行目の「争いのない事実)。」の次に行を変えて「(三)被控訴人東芝は、被控訴人三明との合意に基づき、被控訴人三明の代理人としてかは別として、控訴人との本件運送契約の締結に当たった(弁論の全趣旨)。」を加え、同一〇行目の「人民高等法院に控訴し」を「市高級人民法院に上訴し」に改める。
(八) 同八枚目裏二行目の「二」の次に「、四四、市川証人」を加える。
(九) 同九枚目表六行目の「六」の次に「、市川証人」を加える。
2 控訴人の当審における主張
(一) 請求原因その一
(1) 被控訴人三明と中国側との間には、本件貨物の売買契約の成立直後から、七月ころにかけて前記のようなトラブルが発生しており、中国側は、本件七月分については、その船積の中止、受領拒否及び損害賠償を通告し、同被控訴人による再三にわたる信用状の期限の延長請求を無視し、同被控訴人に対し、右貨物の船積みの履行により生じる一切の責任を負担することになるとの警告をしていた。
被控訴人東芝は、被控訴人三明と中国側との売買契約上のC&F福州の条件を自ら引受け、かつ、被控訴人三明からの売買代金の回収は本件信用状の決裁に依拠するなど右売買取引に重大な利害関係を有し、被控訴人三明との間に緊密な連携関係があった。
控訴人と被控訴人東芝又は被控訴人三明(被控訴人東芝を代理人として)との間に、七月一七日、前記のとおり本件運送契約が成立した。
(2) 本件運送契約の締結に際し、大倉山の横浜港入港予定は、七月末(七月三〇日、三一日)であったところ、被控訴人らは、控訴人に対し、右入港予定を承知のうえ、七月二五日に、同日付けの本件船荷証券の発行を要求し、控訴人はこれを承諾し、本件貨物が被控訴人東芝により、七月二二、二三日に通関を完了し、控訴人の指定するコンテナーヤード(大黒埠頭)に搬入されたことを確認のうえ、七月二五日に本件船荷証券を発行し、被控訴人らは、本件七月分の船積み未完了を知りながら、本件船荷証券を受領した。さらに、被控訴人らは、七月二九日、本件船荷証券の前発行及び本件七月分の船積み未完了を確認した。
(3) 控訴人は、中国判決により中国側に対し賠償金の支払いを命じられた損害は、中国側が本件七月分を転売したところ、右転売が実行不能になり転売契約を解除されたことにより中国側が被ったとする損害であるが、右転売成立の誘因(契機)を与えたのは被控訴人らの次の行為であり、中国側は、被控訴人三明の本件七月分の履行の意思を確認のうえ右貨物を転売したものである。
ア 被控訴人らは、七月二六日、中国側に対し、本件七月分の船積みは完了したとの虚偽の通知をした。
イ 被控訴人三明は、七月二五、二六日に中国側とトラブル解決のために会談した際、中国側は、本件七月分の船積みを中止し、被控訴人東芝に製品代金の三〇パーセントを賠償し、これを被控訴人三明と中国側とが共同分担する(第一案)か、本件七月分の船積みを履行する場合には被控訴人三明は八万ドルの賠償をする(第二案)かの案を提示したが、被控訴人三明は、本件七月分の履行を前提に右第二案に、賠償金額には交渉の余地を残して基本的に同意した。
ウ 被控訴人三明は、七月二九日、中国側との会談で、本件七月分は保税倉庫に現存し船積み待機中、すなわち船積み未完了であることを認め、本件七月分の履行をすることを確認し、これを前提に第二案を再度確認し、又は少なくとも第二案で検討することを確認した。
(4) 荷主である被控訴人らは、運送の中止、運送品の返還その他の処分を指示し、指揮監督する権限を有し、運送人である控訴人はこれに従う義務を有し何らの裁量権もないが、荷主の右処分権と表裏一体の関係において、荷主である被控訴人らは、運送契約の成立から貨物の受取り、船積み、保管、運送、陸揚げ、引渡し及び契約関係終了後の各過程において、運送人である控訴人の利益を侵害してはならない付随義務(保護義務)がある。
右保護義務は、被控訴人らが本件売買契約上又は貿易取引の国際ルールないし商慣行上中国側に負担している義務と同一又は不可分なものであり、船積み前の発行であることを知って船荷証券を受領後又は少なくとも七月二九日にこれを知って以降、特に本件七月分の船積期限(七月三〇日)徒過後は、中国側と交渉して船積みの中止、船積期限の延長その他適切な事後策を取って円満に解決すべき危険(紛争)回避義務である。特に、大倉山の入港の遅延により船積期限が徒過した以上は、被控訴人らは本件信用状の決済を中止し、中国側と交渉するなどして、本件七月分の船積みを実行するのか、或いは、船積みを実行する場合には第二案による賠償金を支弁して船積み期限の延長を図るなど危険(紛争)を回避する義務があった。
しかし、被控訴人らは、本件七月分の船積み未完了を承知のうえで中国側から本件信用状を得ていたことを奇貨として、本件売買取引及び貿易取引の国際ルールに違反して、七月二六日に船積み完了を通知し、本件船荷証券その他船積書類を用いて代金の回収の手続を始め、七月末、本件信用状を中国銀行に取立てに廻した。また、船積期限の到来にもかかわらず、それ以後本件七月分の出荷に至るまで、八月一三日には中国側から本件信用状の違法決済の指摘、本件七月分の受領拒否等、本件船積み強行による一切の結果責任の負担等の警告を受けたのに、これを無視し、中国側と折衝して船積期限の延長その他適切な事後策を取るなどの危険(紛争)回避義務に違反し、控訴人に対する保護義務に違反した。そして、一〇月四日ころ、本件信用状により代金の回収を完了した。
(5) 控訴人の損害の発生
控訴人は、本件船荷証券の発行者として、中国側から損害賠償の請求を受け、中国判決により、八五七七万八〇七六円相当の損害賠償を命じられ、右金員を支払った。右のほか、控訴人の中国での訴訟資料の収集及び訴訟活動の費用(一三四〇万九二八四円)、その他の費用(三三七万八九八五円)の出捐を余儀なくされた。したがって、控訴人は、合計一億二五六万六三四五円の損害を被った。
(6) 因果関係
被控訴人らの保護義務違反と控訴人の損害との間には相当因果関係がある。
(二) 請求原因その二
(1) 請求原因その一の(1)と同じ
(2) 本件運送契約の締結時、大倉山の横浜港入港予定は七月末(七月三〇、三一日)であった。控訴人は、右契約に基づき、本件七月分が七月二二、二三日に通関を完了し、控訴人の指定するコンテナーヤード(保税倉庫)に搬入されたことを確認のうえ、七月二五日に本件船荷証券を発行した。右証券が発行された時点では、大倉山の入港は七月末から八月上旬にかけてであった。
(3) 被控訴人らは、七月二五日、本件七月分の船積み未完了を承知で、控訴人から本件船荷証券を受領した。
また、被控訴人らは、七月二九日、本件船荷証券の前発行及び本件貨物七月分の船積み未完了を確認した。
(4) 請求原因その一(3)ないし(6)に同じ。
3 被控訴人東芝、同三明の当審における主張
(一) 被控訴人東芝
被控訴人東芝は、本件船荷証券の発行を要求したことはない。被控訴人東芝が、本件貨物の船積みを知ったのは八月一四日であり、本件船荷証券発行時、本件七月分の船積みが未了であることを知らなかったし、七月二九日にも知らなかった。
また、被控訴人東芝は、被控訴人三明の代理人として本件運送契約を締結したものであり、右契約の当事者ではないから保護義務を負ういわれはない。
(二) 被控訴人三明
被控訴人三明は、本件船荷証券の発行を要求したことはない。被控訴人三明は、本件船荷証券発行時、本件七月分の船積みが未了であることを知らなかったし、七月二九日にも知らなかった。
被控訴人三明は、自ら直接にも、被控訴人東芝を代理人としても、本件運送契約を締結したことはない。右契約は、被控訴人東芝と控訴人との間に締結されたものである。
(三) 被控訴人のいずれかが、契約の当事者であるとしても、荷送人が運送人に対し運送契約上の義務のほかに控訴人主張のような付随義務(保護義務)を負うものではない。
三 当裁判所の判断
1 当事者間に争いのない事実、甲八号証の一、証人市川巌、同柳瀬正俊の各証言及び弁論の全趣旨によれば、控訴人は、本件七月分の船積み前の七月二五日、同日付けの本件船荷証券を発行したこと、本件船荷証券は受取船荷証券ではなく、船積船荷証券であることが認められる。
2 控訴人は、被控訴人らに本件運送契約に付随する保護義務違反があると主張する。
控訴人の主張は、控訴人は中国側に対し損害賠償を命じられて損害を被ったが、荷送人である被控訴人らは、中国側と本件国際契約の履行をめぐって紛争があったのであるから、これを控訴人に告知し、或いは中国側との関係の円滑な進行を図るなどして、控訴人が運送契約の履行により損害を被らないようにする義務があるというもののようである。しかし、甲一、二号証によれば、控訴人が中国側に対し、命じられた損害は、控訴人が本件貨物の船積み前である七月二五日に本件船積船荷証券を発行したところから、中国側が本件七月分の船積みが完了したものと信じ、その後である七月二九日に右貨物を八月二〇日引渡しの条件で第三者へ転売したところ、右期限に右貨物を受領することができず右転売契約を履行できなかったために第三者から契約を解除されたことにより被った財産的損失の填補であり、右損害は控訴人の本件船荷証券の前発行の結果として生じるとされたものである。運送人である控訴人が、船荷証券の前発行という違法行為をしたために損害賠償を請求される危険がある場合に、荷主である被控訴人らが、控訴人が損害賠償を請求されないように配慮する付随義務が運送契約に伴って生じるとの主張には疑問を禁じ得ないものがあるが、控訴人の主張するような付随義務が被控訴人らにあるかどうかはともかく、仮に、被控訴人らに控訴人が本件船荷証券の前発行により損害を被ることを回避する義務が生じるものとするならば、それは被控訴人らが右船荷証券の前発行を要求するなどして関与するか、少なくとも前発行であることを認識していたことを必要とするものと解される(控訴人も、被控訴人らに右義務の生じる前提として、被控訴人らは、本件船荷証券の前発行を要求したか、少なくとも、本件七月分の船積みがなされていないことを知って右船荷証券を受領したか、又は七月二九日には本件船積み未完了を知っていたと主張している。)。そこでまず、控訴人主張の右事実が肯定されるかどうかを順次検討する。なお、被控訴人らのうちいずれが本件運送契約の当事者であるかは暫くおくこととする。
証人市川、同柳瀬、同江良淑子の各証言及び甲四一号証の二、同八四号証中には、控訴人の右主張に沿う供述ないし記載がある。そして、甲五号証によれば、本件信用状の有効期限は七月三〇日であるところ、本件七月分の船積期限も同日であること、船荷証券の取得後信用状による決済までには、本件六月分については、船荷証券(六月三〇日付け―丙三号証)発行後約四日を要していること(甲七号証の一、丙三号証、証人市川の証言)、被控訴人三明は、前示のとおり、中国側に対し本件七月分について再三にわたり本件信用状の有効期限の延長を求めたものの右延長が受け入れられた形跡はないこと、被控訴人三明は、本件船荷証券の発行があったことにより、本件信用状の決済により本件国際契約の代金の支払いを受けたこと(弁論の全趣旨)が認められ、右事実によれば、本件信用状の決済により被控訴人三明が取得する輸出代金から代金の支払いを受ける約束であった被控訴人東芝が、控訴人に対し本件船荷証券の船積み前発行(以下「前発行」という。)を求めたのではないかと考えられないでもない。しかし、次の事実が認められる。
(一) 甲八四号証、証人市川、同柳瀬、同江良の各証言によれば、控訴人の社内のルールでは、荷主の請求により船荷証券の前発行をする場合には、荷主から必ず保証状を徴する扱いであるところ、控訴人は、被控訴人らから保証状を徴していない(当事者間に争いがない。)し、その後もこれを徴する措置を取っていない。この点について、証人市川、同柳瀬は、控訴人の担当者がこれを徴収することを忘れたと供述するが、このように重要なことを忘れたことについて特段の説明もなく、取り忘れに気付いた時期についても明らかではないのであって、これは直ちには信じ難く(甲七号証の一、丙一一号証によれば、控訴人は、本件六月分の船荷証券の発行日付を六月二九日から同月三〇日に変更するに当たり、被控訴人から保証状を徴している。)、控訴人が保証状を徴収していないことは、本件船荷証券が、被控訴人らの請求により発行されたことについて重大な疑問を抱かせるものである。
(二) 甲四〇号証の一、同四二号証、証人江良の証言によれば、被控訴人東芝が、七月四日、控訴人に対し、本件七月分の運送の予約(ブッキング)をしたとき、船積みは七月二四、二五日の予定であったところ、その後、七月一〇日ころには、大倉山の入港は七月三〇、三一日に変更され、その後、さらに入港日時が繰り下がったことが認められる。証人江良は、セイリング・デイトが変更になる度に、被控訴人東芝の運輸部の斉藤統一(以下「斉藤」という。)に電話で連絡しており、甲四二号証のリマークス欄の「MR斉藤」の記載の次の番号は斉藤の電話番号かファックス番号と思うと述べ、右番号はその記載位置から見て斉藤の番号を記載したものとみるのが自然であるが、右番号は東芝第一国際事業営業部のファックス番号(甲七八号証)であって、運輸部の斉藤に右番号で連絡を取ることができないことが認められ、大倉山の入港予定日時の被控訴人らへの連絡にも疑いを生じさせるものがあり、他に被控訴人東芝への連絡を証するに足りる証拠もないことを合わせると、右江良の証言のみでは、入港日時の被控訴人東芝への連絡を認めるには足りない。ちなみに、証人宮下は、七月中旬、斉藤が控訴人に確認したうえでの連絡として、宮下に大倉山は七月二五日入港予定であると述べたので、船積日は同日であると思っていた旨述べている。
(三) 証人市川、同柳瀬、同江良の各証言によれば、控訴人の社内ルールでは、控訴人による船荷証券の前発行は原則的に禁止され、例外的に前発行がなされる場合には、その条件として、貨物のヤードへの搬入、場合により船の入港の確認、荷主の保証状の取得が必要とされていたところ、船舶の運行は不安定であり、入出港予定日の変更が間々あることが窺われるのに(証人市川の証言)、大倉山が未だ入港していないのに本件船荷証券の前発行がされていることを考えると、運送業者である控訴人においても大倉山の運航状況を十分に把握していなかったのではないかとの疑いがある。そうすると、控訴人において船荷証券の前発行については十全な事務処理が行われていたとはいい難いものがある。
(四) 甲四一号証の二には、「東芝のリクエスト通り、7/25Date発行した。L/Gとりわすれ。」の記載があるが、右書面は、本件船荷証券前発行が問題化した後である九月一三日付けであり、そのころ作成されたものと認められる(証人柳瀬の証言)から、右記載はそれだけでは、それほど信用できるものとはいえない。
以上の事実や証人宮下敏和、同斉藤統一の証言や乙六号証は、いずれも、被控訴人東芝が本件船荷証券の前発行を控訴人に求めたことや右船荷証券の発行時に本件七月分が船積み前であることを知っていたことを否定している供述をしていることに、証人市川は、被控訴人らとの本件取引時、右取引に直接関与した担当者ではなく、同証人の本件船荷証券の前発行に関する供述は伝聞に基づくものであること、証人柳瀬と証人江良とは本件取引に担当者として直接関与したが、本件船荷証券の前発行に至る経緯、特に斉藤からの連絡、斉藤への連絡については必ずしも明確な供述をしておらず、両者の供述には食い違いも窺われることを合わせ考えると、控訴人の主張に沿う前記各証拠は、右証拠だけでは前発行の事実を被控訴人らが船荷証券受領時に知っていたことを証する証拠としては十分とはいえないから直ちには採用し難く、その他控訴人の右の点の主張を支持するに足りる証拠はない。被控訴人らが独自の情報網により大倉山の動静を察知しており、本件船荷証券の発行時に同船が未だ入港していなかったことを知っていたことを認めるだけの証拠もない。
なお、控訴人は、被控訴人東芝は、「もし、原告〔控訴人〕から船が同年七月末までの船積みはおろか、横浜港への入行[入港の誤りか。]も危うい状況にあったことを知らされていたならば、原告に対して本件製品の運送を依頼することはなかったし、仮に運送を依頼していたとしても、運送契約を破棄し、本件船積みをとりやめることも十分あり得たのである。」(同被控訴人の原審平成二年五月二一日付け準備書面(四))及び「東京営業所長簡牛他一名が被告[被控訴人東芝]の本社ビルを訪ね、内山に対し、「大倉山」の横浜入港が遅れ、本貨の船積みが七月末まで出来なかったことを認めた。」(同被控訴人の原審平成三年三月二六日付け準備書面(八))と主張することにより、本件船荷証券の発行時に本件七月分が未だ船積みされていないことを認めたものであるから、被控訴人東芝は本件船荷証券発行時に本件七月分が未だ船積みされていないことを知っていた事実を原審で自白したものであると主張するが、被控訴人東芝は、原審で本件船荷証券の発行時に本件七月分の船積みがなされていないことを知っていたことを一貫して否認する主張をしている上、被控訴人東芝の前記主張部分は、その文言自体や前後の文脈から見ても、控訴人のいうように本件船荷証券の船積み前発行であることを知っていたことを認める趣旨の自白と解することは到底できないから、控訴人の主張は採ることができない。
したがって、被控訴人らが、本件船荷証券の前発行を要求したこと又は右船荷証券が前発行であることをその発行時に知っていたことを認めることはできない。
3 次に、控訴人は、被控訴人らは、七月二九日には、本件七月分の船積み未完了を知っていたとも主張するので、この点について判断する。被控訴人東芝について、右事実を認めるに足りる証拠はない。また、乙六号証によれば、被控訴人三明は、七月二六日、本件七月分の契約の解除を主張する中国側と中国で会談をし、その席で中国側は二個の解決案を示したが、甲二七、二八号証によれば、その三日後、中国側が国際電話で被控訴人の意向を問い合わせてきた際の回答について、被控訴人三明は、「われわれとしては、貨物がすでに保税倉庫にはいっており、船会社より出港予定日の通知もあり、キャンセルできない状況にあったので、第二案で検討することを表明しました。」、「われわれは、船会社の出航予定日にしたがい、契約書通りに、船積みのため、保税倉庫に搬入し、正式なB/Lを持ち、銀行を通して、所定の手続を完了したものです。」とその回答の内容を説明した八月二七日付け書面を中国側に送付したことが認められ、右電話による回答のなされたのは七月二九日ころと認められるが、右内容の電話が船積み中止を主張する中国側に対し本件国際契約の履行をせざるをえない理由の説明としてなされた経緯や右書面全体の文意、本件運送契約やこれに基づく運送について、控訴人と直接接触したのは、被控訴人東芝であること、本件貨物の船積みの有無は、船荷証券の発行に当たり控訴人が確認すべき事項であることに照らすと、右文面の記載だけから、同日ころ、被控訴人三明が本件船荷証券の前発行を知ったとまでいうことはできない。
4 したがって、前記の各前提事実がいずれも認められない以上、被控訴人らに付随義務を生じる余地はなく、控訴人の付随義務違反を理由とする主張は、その余の点を判断するまでもなく理由がない。
また、被控訴人らに付随義務が認められない以上、被控訴人らの行為が、債務不履行になるとの主張も、これに違反することにより違法性を帯びて不法行為になるとする主張もいずれも理由がない(もとより、控訴人と被控訴人らの共同不法行為を前提とした求償権の行使ということも問題となり得ない。)。
したがって、控訴人の被控訴人らに対する本訴請求は、いずれも理由がない。
5 本件運送契約の当事者について
本件七月分を含む本件貨物については、被控訴人三明が中国側と前示の条件で国際契約を締結したこと、同被控訴人は、右貨物を被控訴人東芝から買い受ける国内契約を締結したことは前示のとおりである。
右貨物については、被控訴人東芝において、前示のとおり、C&F福州の条件で被控訴人三明に売り渡し、所定の期日に船積みをする約定であったこと、証人斉藤の証言によれば、本件七月分については、被控訴人東芝において、控訴人に運送を申し入れて船腹の予約をしたうえ運送契約を締結し、控訴人の指示により海貨業者泰運商会を介して工場からヤードに搬入し、控訴人からの運送についてのその後の連絡等は被控訴人東芝あてになされるなど控訴人との運送に関する接触は被控訴人東芝がしていることが認められる。しかし、本件船荷証券上の荷主は被控訴人三明であること、控訴人作成の予約台帳(甲四二号証)や稟議書(甲四一号証の一)にも荷送人は被控訴人三明と記載されていること、本件七月分と同様の条件で控訴人が運送契約を締結した本件六月分について、被控訴人三明が保証状を発行していること(甲七、八号証の各一、丙一一号証)が認められ、これに前記した被控訴人ら相互及び被控訴人三明と中国側との各関係(被控訴人三明が中国側に貨物を船積みをして引き渡す義務を負っている。)を合わせ考えると、本件運送契約における荷送人は被控訴人三明であり、被控訴人東芝は被控訴人三明の代理人の立場で控訴人と本件運送契約を締結したものということができる。甲四三号証の一ないし七、九ないし一二、一五(コンテナ貨物搬入票)には、荷主として被控訴人東芝と記載されているが、以上の判示と同号証八、一三、一四には運送人である控訴人が荷主と記載されていることを合わせ考えると、右記載は誤りである(証人市川、同斉藤の各証言)とも見ることができるので、右認定を左右するものではない。また、被控訴人東芝と被控訴人三明との間の国内契約の取引条件(C&F福州の価格約定)も右認定と矛盾するものではない。
そうとすると、被控訴人東芝は、控訴人と運送契約関係にないことになるから、被控訴人東芝が、運送契約の当事者であることを前提にする控訴人の同被控訴人に対する本訴請求は、この点からも理由がないことになる。
四 以上のとおり、控訴人の本訴請求をいずれも棄却した原判決は正当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官伊藤滋夫 裁判官宗方武 裁判官飯村敏明)